ごめんね
会社から帰るといつものように、リビングから声をかけた。
ダイニングにおむすびが横たわっているのが見えた。
もう一度声をかけた。
おむすびは動かなかった。
駆け寄ると、おむすびは足を投げ出すようにして倒れていた。
冷たくなっていた。
私は声をあげて泣いた。
近所に聞こえるほどの大声で。
誰に聞こえても、もう構わなかった。
声を出して泣いたのなんて、小学生の頃が最後じゃないだろうか。
父や母が亡くなった時も、声を殺して泣いた。
でももう動かないおむすびを前にして、声を殺すなんできなかった。
ごめんね、おむすび。ひとりで逝かせちゃってごめんね。
一緒にいられなくてごめん。
そう繰り返して2時間くらい泣き続けた頃、三太が帰ってきた。
三太は、私のひどい顔と動かないおむすびを見て立ち尽くし、「とうとうお迎えが来ちゃったんだ・・。」とぽつりと言った。
どうしても、お別れは言えない
おむすびの葬儀の日は、冷たい雨だった。
家を出る前に、三太がおむすびを抱えて二人で家の中を歩いて回った。
大好きだった、おやつが出てくるキッチン。
好奇心いっぱいで探検した納戸。
毎晩一緒に眠った寝室。
そして、パトロール部屋のパトロール台。
毎日熱心に外を眺めていた。
私は、その一生懸命な後ろ姿が大好きだった。
うちの猫になる前にノラ猫として暮らした外の風景を、おむすびはどんな気持ちで眺めていたんだろう?
うちに来て、幸せだった?
私たちは、おむすびと一緒に暮らせて幸せだったよ。
うちに来てくれて、ありがとね。
雨は、葬儀社の駐車場のアスファルトに叩きつけられて、跳ね返るほど強く降った。
おむすびに花を手向けたあと、葬儀社の人が「お別れしてください」と言った。
もう一度撫でてキスして、やっとの思いでおむすびから自分を引きはがした。
葬儀社の人が「よろしいですか?」と聞いた。
いいわけない。
でも仕方なく「はい」と答えた。
そしておむすびは、焼却室のドアに吸い込まれていった。
溢れてくる涙でぼやけた視界の中で、おむすびを吸い込んだ部屋の鉄の扉が閉まった。
それが2014年11月のことだった。
体こそ神様に返したが、おむすびは今でも私の心の中で生きている。
おむすびのことだから、虹の橋のたもとで私たちを待たず、さっさと橋を渡って天国でおいしいゴハンを食べてるんじゃないだろうか。
そして、天国からちょくちょくうちに遊びにきている気がする。
いつか私や三太がそちらに行った時は、必ず迎えに来てよ。
そしてまた、一緒に暮らそう。
このおむすび編を、おむすびに捧げたい。
あれから、5年以上の月日が経ったけど、今もあなたのことが大好き。
最後に・・・
おむすびのお話におつき合い下さり、ありがとうございました。
1週間ほどお休みをしまして、次回よりアオイとユズのお話をしてまいります。
漫画には、おむすびも天使として登場する予定です。
これからも、うちの猫たちをよろしくお願いいたします。
読んで下さりありがとうございます
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