前回のお話から 半年ほど経ったころのこと。
「えびね」こと私とノラネコおむすびの距離はすこしずつ近くなっていきます。
おむすび うちまでテリトリーを広げる
季節は巡り、梅雨の季節になった。
あれから おむすびは我が家の方までテリトリーを広げ、ちょくちょく現れるようになった。
ポストから郵便物を出して家に入ろうとすると、後ろでニャーと一声、振り抜くとおむすびがいる、といった具合だ。
「なあに?」と返すとまたニャーと言う。
「そうなの」と適当に返してもまたニャーニャー言う。
意味を成しているのか成していないのか、自分でも判然としないやりとりがしばらく続くのだが、あんまりニャーニャー言うから、かつおぶしなどのおやつをちょっと与える。
おやつを食べると、おむすびは満足そうに戻っていった。
春先から梅雨までの数ヶ月、そんな日々が続いた。
そして梅雨の嫌な季節がやってきた
梅雨の季節が始まると 庭にはナメクジが増えてくる。
昼間は石の下などに隠れているが、夜になると彼らはうようよと動き始める。
私が猫の額ほどの家庭菜園で丹精込めて育てている野菜も、彼らに荒らされてしまう。シソの葉にナメクジの通った跡、バジルを齧った跡を見るとがっかりだ。
昼間は石の下などに隠れているが、夜になると彼らはうようよと動き始める。
私が猫の額ほどの家庭菜園で丹精込めて育てている野菜も、彼らに荒らされてしまう。シソの葉にナメクジの通った跡、バジルを齧った跡を見るとがっかりだ。
ということで、私はナメクジ退治を始めた。
人通りのなくなった夜に、ピンセットで一匹ずつ地道に捕まえるのである。うぅっ、気持ちワルイ。
その日の夜も、私はピンセット片手に庭に出ていた。
空気はむっとしていて、暑い夏が来ることを予感させた。
空気はむっとしていて、暑い夏が来ることを予感させた。
いつものように露でぬれた芝にかがみこんでナメクジをさがしていると、向かいの奥さんが勤め先から帰ってきたようで、道の向こうから何やらしゃべりながらやってくる。
「おいでー。こっちよー」と言いながら歩いている。どうやらおむすびを連れてきた様子。
自分の庭とはいえ、こんな暗がりでしゃがみこんでいた私、挙動不審なヤツだと思われそうだ。
このまましゃがみながら生垣にへばりついて この場をやり過ごすことに決めた。
このまましゃがみながら生垣にへばりついて この場をやり過ごすことに決めた。
奥さんが家の前で、ちょっと待ってね、と言っている。
ドアを開け閉めする音がして、しんと静まりかえる。
家に入ったのか?もしや私が家に戻るチャンス?などと考えていたら、またしてもドアの音。声がして、おむすびに食べるものをあげているようだ。
それにしても長い。こっそり身を潜めて身動きできない私には、これだけあれば余裕で即席ラーメンが作れるんじゃないかとさえ思われる。
ようやく「じゃあね」と奥さんの声がして、バタンとドアの閉まる音が響いた。
私は忍者さながらに生垣に潜みながら、おむすびが私に気づかないよう念じた。
そんな念もむなしく、おむすびは気づいたのである。
うちの門から回りこみ、すたすたと庭までやってきて、私を見ながら鳴き出した。
私としては完璧に隠れていたつもりだったのだが、いとも簡単に見破られていたのだった。
それにしてもなぜわかってしまったんだろう?
「わかったわかった、ちょっと待っててね」そう言って家に入った。
キッチンでいつものかつおぶしを取り出しながら、私はさっきお向かいさんがたてたバタンというドアの音に思いを巡らせた。
猫にしてみれば、目の前でドアを閉められたら、まるで突き放されたような 甘い期待が静かに打ち砕かれたような気分になったりするんじゃないだろうか。
そしてそれは半年前の冬の寒い日に、おむすびがシーチキンを食べ終わった後鳴き続けて困った時に、私もやったことだ。
そんなことを考えていたら、なんだか心がしょんぼりしてきてしまった。
かつぶしをひとつまみ持つと、私はおむすびの待つ外に出た。
食べ始めたのを見届けて立ち上がり、家に入った。
ドアは無情に響かないように、静かにそっと閉めた。
おむすび編5に続きます
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