三太は私の夫だが、三太がいなければおむすびがうちの猫になることはなかっただろう。
三太の話
僕はね、ノラ猫を見ると自然と足が止まっちゃうんですよ。
よっぽど急いていない限り、近づいていって写メとか撮ったり。
撮ったらどうするかって?
どうもしないなぁ。保存して後で見るくらいかな。
SNSとかやってないしね。
猫が人に慣れていれば触ったりしますよ。
昔ノラ猫が実家を出入りしてたことがあってね、エサをあげてたのは母親でしたけど。
僕は特に可愛がってたわけじゃないけど、その猫が石の間に挟まって死んじゃってたのを見た時のことは忘れられないな。
おむすびは近所で、人懐っこくて有名なノラ猫だったんですよ。
でね、よく僕の目の前を思わせぶりに横切ったりするわけ。
ちょっとツンとして、僕のことなんか目に入ってないような顔してね。
で、おむすびが消えた路地とか人んちの駐車場を見ると、待っていたようにこっちを向いてちょこんとお座りしてるんだよね。
寄っていって頭を撫でると、嬉しそうにぐりぐり頭を手に押しつけるんですよ。
でもって、しゃがんだ僕の膝に乗ろうとしたりして。
おむすびはよくお腹を空かせていて、僕のあとをついてくることがありましたね。
ついてきたら、何もあげないわけにいかないでしょ?
ぶっちぎるなんて、できるわけないよ。
帰宅してキッチンで何かあげられるものはないかと探してると、険しい顔の妻がやってきて「またあの猫?」って聞くんですよ。
「うん、外で待ってる」って答えると、妻は「去勢避妊手術してるかどうかわからない猫にエサあげるってどうなの?」と言う。
黙っていると妻は結局、しょうがないわねっていう顔で「かつおぶしならあるよ」と言って出してくれるんですけどね。
おむすびは数年ここらへんをウロウロしてたけど、元は飼い猫だし、お腹が大きいのを見たことがないから、妻も薄々避妊手術は済んでると思ってたんじゃないかな。
外でかつおぶしをあげて家に入ると、おむすびがもっとくれみたいに鳴くことがあってね。
それを聞いた妻が「胸が痛む」って言ってたな。「だから嫌なんだよ、もう連れて来ないで」って。
それでも連れてきてましたけどね、ハハハッ。
それからなんだかんだあって、おむすびはうちの猫になりましたよ。
まぁ、僕としては奥さんが二人いる感じ、とでもいいますか。
私の話
私はおむすびと暮らすようになってから、人間に感じてきたような愛情とは全く違う愛情が自分の中にあったことに気づいた。
私は自分を愛情深い人間だとは思ってなかったから、その深さと純度の高さに驚いた。
おむすびは私の心の領域を広げてくれた。
だから、三太がおむすびを連れてくるたびチクチク言っていたが、今となっては感謝するしかなさそうだ。
おむすび編114に続きます
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